ほしばなし

JK & JMに触発されて書いた、短いお話

2023-01-01から1年間の記事一覧

聴き慣れたプレイリストのメロディーをそっとかき分けるようにして、素肌が覆い被さってきた。 JKの唇を自分の耳元へ誘うように少し頭を傾げると、ちょうど目の前に相手の左肩がきた。 そこに、まだ出来て間もない傷がある。 周りの肌にくらべて赤みが濃くて…

浅い眠り

絶対に揺らぐことはないと信じていたのに、相手の表情を怖々覗かないといけないような、そんなヒリヒリした時期を過ごした後、ようやくちゃんとお互いを確かめ合うことができた。 そんな時間を過ごした夜くらい、安心してゆっくり眠ってもよさそうなものなの…

祈り

もう出る? まだ もうすぐで着く わかった まだ行かないでよ 大丈夫だって 仕事からの帰り、車の後部座で自分達の会話の履歴を見ながら、まるで別れ話でもしてるみたいだ、とJKは笑ってしまった。 それでも、その後もしつこく駐車場、エレベーター、と現在位…

なくしもの

一体どこにやってしまったんだろう。 帰ってきたばかりだというのに、旅先で食べた料理が美味しかったからと、早速キッチンに立っているJKの手捌きをソファーから見ながらJMは記憶を辿っていた。 それは、黒い石のついた指輪だった。 撮影現場で並べられてい…

生まれた日

その時間まであと数分だというのに、JKは未だ何も文字を打てずにいた。 誕生日なのだから祝いのひと言は当然として、後に続く言葉が浮かんでこない。 もう何年もこの日を一緒に祝ってきた。 昨晩も日付が変わったと同時に、相手の唇に親指で触れながら、おめ…

ベッドの上で

何度打ちのめされてもしぶとく起き上がってくる弱いファイターのように鳴るアラームを、また消してしまった。 そうやってJMが、起き上がるまであと2分、あと1分、とタイミングを先延ばしにしている間に、そっとドアが開く気配がして、ベッドが遠慮がちに軋…

君に

ひとりで大舞台に立つ君に 僕の歌声を持たせよう 何でも上手くこなす君に 僕のダンスを捧げよう でもたまに風邪を拗らせたりする君に 画面越しに視線を送ろう こんな僕に心をくれる君に 持てるものを全てあげたい 飛行機は予定通りに到着したようだし、自分…

まず彼の口元を見るのが、JKの癖だ。 何が気に触ったのかは分からない。 ただその日、JMは明らかにJKを挑発していた。 回っているカメラの前で、兄の体に身を寄せ太腿に触れ、それをJKが見ていることを確認するように頬を少し後ろに向けたりした。 誘いに乗…

いよいよふたりを送り出す時がやってきた。 下に降りてしまえば、もうここのことは忘れてしまう。 互いの手をしっかり握ったままのふたりを見て、天使達も切なくなってしまっている。 なんとかしてやりたいが、と皆がふたりを見つめるなか、神様が口を開いた…

「愛してる」

どんな場面で言うのが好きかって? それは 船の上で 夜空を見上げる瞳に 星がきらめくのを眺めながら 遊園地のアトラクションに乗って その高さに少し強張った笑顔に向かって 当然、ベッドの上で 余裕をなくしてる相手の耳の付け根に 唇をあてるようにして …

ゲーム

まいったな JKは仕事先の控え室で携帯を置いて、小さくため息をついた。 それは月が綺麗な夜のことだった。 カーテンを開けた寝室のベッドの上で体を密着させたまま、JKは冗談を言って相手をからかっていた。 空にある天体よりずっと魅力的な月が目の前に浮…

ごあいさつ

読んで下さってる皆さま いつもありがとうございます。 非公開ですがメッセージをもらって、ここに書き始めて一年経ったことを知りました。 何も長続きしたことのない私が一年も続けてこれたのは、素敵なふたりと読んで下さってる皆さんの優しい気配のおかけ…

背中

薄く伸ばした綿のような雲の隙間から 大きくて丸い月がやっと顔を出した。 見えた そう言っても、背後にいるJKは小さな唸り声のような音をたてるだけだった。 今夜は月が綺麗らしいよ お前がそう言ったからカーテンを開けたのに。 やっと出て来た もう一度言…

僕はNYで、とあるフォトグラファーのアシスタントをしている。 僕の父よりも歳上のボスは、かなりベテランのフォトグラファーだ。専門の学校を出たわけでもなく経験もゼロの僕が、なぜ採用されたのかは分からない。けれど、せっかくつかんだチャンスを無駄に…

料理

JKは鼻歌を歌いながら、早朝のキッチンに立っていた。 慣れた手つきで冷蔵庫から材料を取り出し、カッティングボードの側に並べていく。 『シャワーとかそんなのいいからそのまま来てよ』 昨晩は、出番が終わったタイミングを見計らってメッセージを入れてお…

仕返し

NYからそれほど離れていない割に湿度が低く空気が爽やかなこの土地を、JKは気に入っていた。 心地よい海風が、前にいるJMのシャツの裾をふわりと持ち上げる。 あらわになった腰の輪郭が背後の水平線と眩しく溶け合うのに目を細めながら、JKは自分の奥に愛情…

忙しいの? 何度かかかってきた電話にずっとテキストで返していたら、 そんなメッセージが来た。 単身外国を飛び回っているお前ほど忙しくないよ。 JMは心の中でそう返しながら、咳をした。 あんなに風邪を長引かせている人間の側に居たんだから当然だし、実…

指輪

さっきからずっと部屋の中を行ったり来たりしている相手を見ながら、JKは小さくため息をついた。 自分に尋ねさえすれば日焼け止めも充電器もどこにあるかすぐ分かるのに、声を出すな動くなと言ってきかないので、大人しくソファーの上から見ているしかない。…

落下

僕は乳白色の夢を見ている 眠りと覚醒の境界は曖昧で ただでさえ夜と朝がひっくり返りがちなのに 朝と夜が逆の世界にやってきたせいで 僕はどちらにもいない 目を閉じたほうが明るいとか言うと 人は疲れてるねとか言うんだろう まったく難しいことばかり言い…

煌めき

マニラを走るタクシーの中、その女性はある2人のことを考えていた。 働く三児の母として忙しい日々を送る彼女に、夫がホテルのレストランでのディナーをプレゼントしてくれたのだが、帰途に着く前にトイレに寄った彼女は、ホテルの廊下の隅で向き合って立っ…

雨音

いつの間にか、部屋で流れていた音楽が止んでいる。 そのことに気がついてJMは携帯から顔を上げた。 少しだけ開けた窓から、ずっと降り続いている雨の匂いが入り込んでくる。 雨足は結構強いようだが、高層階の部屋からはカーテンのように広がった雨音しか聴…

♫ ここ最近、JKはずっと同じ歌を歌っている。 今も、食べた後の皿をキッチンに運びながら、その外国語の歌を器用に歌っていた。 一度は習ったことのある言語で、「とっても」や「夜」という単語は自分にも拾えるが、全体像はよく分からない。 どういう歌詞?…

隠しごと

可愛いな、もう 細長く腫れた腕の傷が目に入るたび、口許が緩んでしまう。 人目につく場所になにも痕が残らないよう、こっちは普段から気をつけてるというのに。 久しぶりの再会に大興奮の黒い相棒に、そんな気遣いができるはずもなかった。 明日の出発に備…

髪の匂い

もうすぐ迎えが来るというのに、ギリギリまでベッドで過ごしていたせいで、シャワーを浴びる時間もなくなってしまった。 洗面台の前で慌てて手櫛で髪を整えているJMの後ろに立つと、髪からふわりとシーツの匂いがした。 髪、結んでいけば? 怪訝な顔で自分を…

パレット

タバコを吸う奴の気持ちが分からないって、前に言ってたし。 銃をバンバン撃ち合う映画より、ロマンチックな恋愛ものが好きだろ。 兄が派手に立ち回る姿に、キラキラと瞳を輝かせている彼を横目で見ながら、JKは心のなかで呟いていた。 カットごとにあがる歓…

笑み

彼の笑った顔が好きだ。 瞳のきらめきがまぶたに押されて 水面に反射する陽の光のように揺らめくから。 パッと明かりがついたような笑顔が見たくて しばらくの間、自分の気配を消してから名前を呼ぶ。 泣き出しそうな笑顔を見たくて 誕生日を祝いに海を越え…

天井

電話で他愛もない話をしている間に、1時間が過ぎた。 向こうは一日のスケジュールが始まる前、こちらはそろそろ日付が変わる頃で、JMはベッドの上であぐらをかいたまま強張った首をくるりと回した。 そのはずみで、今日初めて見た、あの扇情的な広告を思い出…

出発

必要なものがすべて入っていることを確認して、JKはスーツケースの蓋を閉めた。 肝心の相手からは、電話はおろかメッセージもなし。 前からの約束とやらを優先させた上、全然帰ってなかったくせに「たまには家に帰らないと」ってなんだ。 これ見よがしにグル…

1分

59、58、57... 胃を搾り上げられるような痛みを感じる。 JMは小さくうめいてベッドの上で寝返りを打った。 真っ暗だと目眩がするので、寝室のドアは開けておいてくれと頼んだ。 暗闇の中、四角く切り取られた空間から、リビングのソファーとそこに座るJKが見…

熱の痕

喉が渇いて目を覚ますと、横に寝ていたはずの彼の姿がなかった。 枕元の携帯に目をやると「ごめん、行かないといけなくなった」とメッセージが入っていた。 海外から帰ってきたばかりで、今日1日は休みになるはずだったのに。 JKはため息をついて、携帯を投…