まず彼の口元を見るのが、JKの癖だ。
何が気に触ったのかは分からない。
ただその日、JMは明らかにJKを挑発していた。
回っているカメラの前で、兄の体に身を寄せ太腿に触れ、それをJKが見ていることを確認するように頬を少し後ろに向けたりした。
誘いに乗ってはだめだと分かっていても、JKの脳はカッとハレーションを起こしたようになり、どんどん血の気が引いていく。
冷たくなっていく指を握りしめて相手の背中を睨みつけている間に、その日の収録は終わった。
相手のその反応で気が済んだのか、帰りの車の中でJMはいつもの彼に戻っていて、今日は早く終わったな、などと話しかけてくる。
そこで、あれは何だと問い詰めるようなことはJKはしない。ただ視線を少し下げて、喉の奥を小さく唸らせるように相槌を打つだけだった。
部屋に戻ってドアを閉めた瞬間、JKは強い力でJMの肘を掴んだ。
相手は少し驚いたようだったが、息を軽く詰めて、されるがままJKに向き合う。
何も言わずJKは顔を寄せて、そして相手の口元を見た。
収録時のリップの色が薄く残ったその唇が少し開いている。
それは、自分を求めている証拠だった。
そのことを確かめるためにJKはいつも口元を見る。
いつしか、それが癖になってしまっていた。
欲しいなら、そんなまどろっこしいやり方をしないで直接言えばいいだろ。
心と体で互いを求めることを恋愛というなら。
自分達は、真っ暗な迷路で壁に体をぶつけながら、行くべき道を探るようにして愛し合っている。手だけ繋いで、痛い思いをして体のあちこちに痣を作りながら、出口までの距離も分からず歩き続けている。
出たところに何があるのかも知らないまま。
相手の息を肌で感じるくらいまで顔を近づけると、案の定JMは目を閉じた。
頭はまだハレーションをおこしたままだ。
それを鎮めるために、相手の吐息を呑み込むくらいの勢いで、JKはキスをした。