タバコを吸う奴の気持ちが分からないって、前に言ってたし。
銃をバンバン撃ち合う映画より、ロマンチックな恋愛ものが好きだろ。
兄が派手に立ち回る姿に、キラキラと瞳を輝かせている彼を横目で見ながら、JKは心のなかで呟いていた。
カットごとにあがる歓声に、いちいち相槌を打つのにも飽きた。
確かに、淫靡な色合いの映像は、自分にないものを持つ兄の印象そのものだった。
濁った油が混ざったような緑や赤、そんな色彩は自分のパレットにはない。
動画がやっと終わり、感極まったように息をついたJMが、声をかけようとしてこちらを向いたのが分かった。
前を凝視したままの自分に気がついたらしく、こめかみあたりを視線で撫でてくるのを感じる。
こういう時は舌が敏感に金属の感触に反応して、頬が動いてしまうのが自分でも分かる。
隣から優しいため息が聞こえて、小さな指が顎に触れてきた。
末っ子をうまく出来ない自分の代わりに、自分が皆の末っ子になると、前にJMは言った。
でも、自分は末っ子をやりたくなかったんじゃない。
彼の弟だけじゃなく、彼の兄にも一番の親友にも、恋人にもなりたかった。誰にもその立場を譲りたくなかっただけだ。
愛情も尊敬もなにもかも、彼の一番は自分が手に入れる。
彼が気になって見る視線の先には、いつも自分が居ないと我慢できない。
だから、いつだってそっと彼を観察し、彼好みの色を慎重に自分のパレットに混ぜ込んできた。
けれど...。
もし今、急に真夏の熱いアスファルトの上に落ちた血液のような、そんな鈍い赤色を滴らせて彼に迫ってみたらどうなるだろう?
自分の頬に置かれた手を、JMは少し強めに握った。
次にキスがくるまで、視線は前を向いたままにしておく。