聴き慣れたプレイリストのメロディーをそっとかき分けるようにして、素肌が覆い被さってきた。
JKの唇を自分の耳元へ誘うように少し頭を傾げると、ちょうど目の前に相手の左肩がきた。
そこに、まだ出来て間もない傷がある。
周りの肌にくらべて赤みが濃くてどこか初心なその痕が、皮膚が破れた場所はここだと知らせていた。
撮影の時に転んでできたという傷。
JKの肩の動きに合わせて身を捩っているように見える、その傷にJMは顔を寄せた。
JKが駆け降りた坂の角度を、JKを襲った衝撃や痛みを、JMは憎んだ。
滴り落ちた血液を吸ったコンクリートに、傷に最初に触れた誰かの指に嫉妬した。
そしてなにより、自分の知らないところで一生残るような傷を作ってきたJKに腹を立てた。
自分にこれほど暗く切羽詰まった感情があるということを気づかせたJKを責めたくなる。
もし彼を知らなければ、自分の背中に生えていた純粋なものを失わずに済んだかもしれないのに。
相手が動くたび、互いの肌があちこちで触れたり離れたりするのを感じる。
触れ合うごとに肌が喜びで身を震わせ、離れるときには名残惜しそうにしている気がするのは、汗のせいか、シャワーの後の保湿クリームのせいか、それとも湿った感情のせいか、それかその全てのせいかもしれない。
JMは相手の身体の下で軽く息を詰めた。
どれほど重なり合ってるときでも、JKは全体重を預けてくることはない。
今も肘や膝のどこかにさりげなく力を入れ、相手を自分の重みで潰してしまわないようにしているのだろう。
そんな心配はいいから。
JMは指の節で相手の胸を優しく擦って、そのまま手を背中にまわした。
そんな心配はいいから、知らないところで体に傷をつけてくるなよ。
ヒトの祖先が空を自由に飛び回っていた名残といわれている、背の隆起に触れながらJMは目を閉じた。
こんなことでこんな気持ちになるくらいだから、自分は本当に離れられないのかもしれない。
賭けてみるしかないのかもしれない。
上手くいくはずがないと思っていても、これ以上自分の感情に背いて何になるだろう。
あの話だけど
やってみようか。
肩の傷に話しかけるようにJMがそう呟くと、JKの動きが止まり、少し体が離れるのを感じた。
それでもこちらを見ているのが分かったので、目を開けて顔を向けると、予想以上に間近に相手の瞳があった。
そのJKの表情を見てしまったことで自分の心についた柔らかな傷から涙が溢れないよう、JMはあわてて心臓を押さえた。
切なくて愛しいこの傷こそ、一生消えない痕になりそうだった。