電話で他愛もない話をしている間に、1時間が過ぎた。
向こうは一日のスケジュールが始まる前、こちらはそろそろ日付が変わる頃で、JMはベッドの上であぐらをかいたまま強張った首をくるりと回した。
そのはずみで、今日初めて見た、あの扇情的な広告を思い出した。
そういえばさ、あれ
お前、何やってんだよ
そう言うと、予想よりかなり長い沈黙の後、ぽつりと返事が返ってきた。
そっちは何させてんの
沈黙が終わるのを待ちながら、JMは顔を天井にむけてそのままごろりと横たわるところだった。
な
に
さ
せ
て
る
?
お
れ
が
?
視界の天地がひっくり帰って天井を見た時
相手が何を言っているのかが分かった。
収録で司会の彼の脚に頭を乗せて横たわった時も、スタジオの天井が見えた。
JMは小さく息を吐いて思った。
主語はおれじゃない。お前が、だろ。
お前がイヤなんだろ。
JKの言うことは、いつでも彼自身が主語だった。
彼が気に入らなくて、彼が心配で、彼が好きなのだ。
何千キロも離れているのに、電話から聞こえる声は市内で通話しているときと全然変わらない。
こういうときは、距離が厄介だった。
彼の顎をちょっと触るだけで解決しそうなことなのに。
あれは、だってさ
と、笑って言おうとしたら
もうそろそろ行かないと
と声が被ってきたので、言い訳を飲み込んでその代わりに出た
「会いたい」
という言葉が、自分が思ったよりずっと急いだ上擦った音になってしまって驚いた。
少しの間の後、笑うような鼻息が聞こえて、通話は切れた。
相手が自分の気持ちを受け入れてくれるかもと勘付いた時、全て彼が主語で物事が進むよう、自分がうまく仕向けた。
すごく狡いと分かっていたけれど、そうするしかなかった。
彼は自分より真っ直ぐで強く、何でも持っていたから。
だから
やめる時も、お前がやめるのでいいんだ。
相手の名前の表示が消えた携帯を眺めていると、ふと涙がこぼれそうになって、JMは思わずもう一度天井を見上げた。