ほしばなし

JK & JMに触発されて書いた、短いお話

ある物語 1

これは、どこかわからないどこかの物語。 彼女は、その青年と森のなかで出会った。 細い紐のような植物に足が絡まって、身動きが取れなくなっている鳥がいた。どうにかその鳥を助けてやりたくて、そっと近づこうとしたとき、彼女は茂みのなかに獣がいること…

【私信です: 綾ちゃんへ】

綾ちゃん、今も読んでくれてますか? 綾ちゃんのアカウントがおかしくなって もう2週間以上経ちました。 心配です。 元気であればいいんだけど。 良かったら、こちらでもいいので声きかせてね。 ほし

海崖(かいがい)

JMは、丘の上にある展望台から見た海のことを思い出していた。 その日は天気が良くて海は青く、白波が陽光を反射して輝いていた。 弧を描く地形のせいで、遠くのほうにある、切り落とされたような崖に波が押し寄せている様子が、展望台からよく見えた。 迫り…

リップクリーム

リップクリームの味がきらい。 だから、家にいるときは寝る間際まで唇に塗らないでと言ってある。 その夜も、ちゃんと言いつけを守って塗らずにいたうえに ふざけて唇を合わせたあと、手で拭ったりするもんだから 上唇が乾いているのが画面越しによく見えた…

メヌエット

昨日ふたりで映画を見た。 そこで流れていた、三拍子のリズムが頭から離れない。 車の後部座席でセルフィーを撮影しているJMの携帯にうつる自分が、物欲しそうな表情をしているのは、たぶんそのせいだと思う。 もう少し顔を寄せないと うまく写らないだろ そ…

拍動

心臓が一生で収縮する回数は、哺乳類であればどの動物もだいたい同じ。 だから、体が小さく拍動のリズムが速い動物の寿命は短い。 友人宅でハムスターを手に乗せたときの、心臓が掌を打つその速度に驚いた話を家でしたら、兄がそう教えてくれた。 1人に一部…

【50本記念アンケート】ジャジャン♫

いつも読んで下さっているみなさま 本当にありがとうございます。 「good / bad」で投稿本数が50になりました。 「51件の記事」という表示をみて嘘でしょ?と疑ってしまいましたが、どうやら本当に50本も話を書いてきたようです。 それもこれも、みなさんの…

good / bad

待ってくれよ。 夜のテーマパークで、男は前を駆けていく息子を早足で追いかけていた。 クリスマス前には息子に弟ができる予定だが、妻は体調を崩して入院している。 とりあえず母子の命に別状はないときいて安心したものの、妻はしばらく安静にするため入院…

階段

渋滞にはまってしまった車は、さっきから少しも進んでいない。 並び建つ摩天楼に反響してか、クラクションの音が閉じた窓越しにも聞こえてくる。 こういうのがNYでは日常茶飯事で、と案内役の女性が前の席から声をかけてくる。 JMは気にしていませんよ、とい…

波に揺れる

「はやく」 余裕をなくしたその声が、自分かJMかどちらのものかわからないくらい、肌も心も密着している。 相手の吐息が肩のあたりで砕けるのを感じながら、JKは思った。 はやく。 自分はどうしていつも急いでいるんだろう。 はやく、上手くなりたい はやく…

JKは、誰もいない部屋にひとりでいた。 そして、鏡に映った自分の姿を見てやるせない気持ちになってしまっていた。 小さくしぼんだ姿で目の前に立っている子供のような自分とは、とても目を合わせることができない。 唇を重ねたのは衝動が引き起こした行動で…

奈落

「あ」 そのときJMの頭をよぎったのは、本当にそのひとことだけだった。 互いに折り重なるようなポーズで団体写真を撮ったときのことだ。 OKの声がかかって姿勢をほどいたときに、自分のすぐ前にあった頭がくるりと方向を変え、顔がJMのほうに向いた。 相手…

宇宙船

空っぽの状態より、家具があるほうが部屋は広く見える。 JKは夜空に向かってそびえ立つ摩天楼を眺めながら、誰かが前にそんなことを言っていたのを思い出していた。 トロフィーが身を寄せ合うように立っている高層ビルたちのせいで空はどこまでも高く、見上…

灯台

嘘だろ 携帯に届いた知らせ見て、JNは思わず声をあげた。 送信主の感情を読み解く余地もない程の短くて簡潔なメッセージに、JNは深く長いため息をついた。 最初は、幼い弟たちの恋愛ごっこだと思った。 キツい日々を乗り越えるための、いわば自衛策として、…

聴き慣れたプレイリストのメロディーをそっとかき分けるようにして、素肌が覆い被さってきた。 JKの唇を自分の耳元へ誘うように少し頭を傾げると、ちょうど目の前に相手の左肩がきた。 そこに、まだ出来て間もない傷がある。 周りの肌にくらべて赤みが濃くて…

浅い眠り

絶対に揺らぐことはないと信じていたのに、相手の表情を怖々覗かないといけないような、そんなヒリヒリした時期を過ごした後、ようやくちゃんとお互いを確かめ合うことができた。 そんな時間を過ごした夜くらい、安心してゆっくり眠ってもよさそうなものなの…

祈り

もう出る? まだ もうすぐで着く わかった まだ行かないでよ 大丈夫だって 仕事からの帰り、車の後部座で自分達の会話の履歴を見ながら、まるで別れ話でもしてるみたいだ、とJKは笑ってしまった。 それでも、その後もしつこく駐車場、エレベーター、と現在位…

なくしもの

一体どこにやってしまったんだろう。 帰ってきたばかりだというのに、旅先で食べた料理が美味しかったからと、早速キッチンに立っているJKの手捌きをソファーから見ながらJMは記憶を辿っていた。 それは、黒い石のついた指輪だった。 撮影現場で並べられてい…

生まれた日

その時間まであと数分だというのに、JKは未だ何も文字を打てずにいた。 誕生日なのだから祝いのひと言は当然として、後に続く言葉が浮かんでこない。 もう何年もこの日を一緒に祝ってきた。 昨晩も日付が変わったと同時に、相手の唇に親指で触れながら、おめ…

ベッドの上で

何度打ちのめされてもしぶとく起き上がってくる弱いファイターのように鳴るアラームを、また消してしまった。 そうやってJMが、起き上がるまであと2分、あと1分、とタイミングを先延ばしにしている間に、そっとドアが開く気配がして、ベッドが遠慮がちに軋…

君に

ひとりで大舞台に立つ君に 僕の歌声を持たせよう 何でも上手くこなす君に 僕のダンスを捧げよう でもたまに風邪を拗らせたりする君に 画面越しに視線を送ろう こんな僕に心をくれる君に 持てるものを全てあげたい 飛行機は予定通りに到着したようだし、自分…

まず彼の口元を見るのが、JKの癖だ。 何が気に触ったのかは分からない。 ただその日、JMは明らかにJKを挑発していた。 回っているカメラの前で、兄の体に身を寄せ太腿に触れ、それをJKが見ていることを確認するように頬を少し後ろに向けたりした。 誘いに乗…

いよいよふたりを送り出す時がやってきた。 下に降りてしまえば、もうここのことは忘れてしまう。 互いの手をしっかり握ったままのふたりを見て、天使達も切なくなってしまっている。 なんとかしてやりたいが、と皆がふたりを見つめるなか、神様が口を開いた…

「愛してる」

どんな場面で言うのが好きかって? それは 船の上で 夜空を見上げる瞳に 星がきらめくのを眺めながら 遊園地のアトラクションに乗って その高さに少し強張った笑顔に向かって 当然、ベッドの上で 余裕をなくしてる相手の耳の付け根に 唇をあてるようにして …

ゲーム

まいったな JKは仕事先の控え室で携帯を置いて、小さくため息をついた。 それは月が綺麗な夜のことだった。 カーテンを開けた寝室のベッドの上で体を密着させたまま、JKは冗談を言って相手をからかっていた。 空にある天体よりずっと魅力的な月が目の前に浮…

ごあいさつ

読んで下さってる皆さま いつもありがとうございます。 非公開ですがメッセージをもらって、ここに書き始めて一年経ったことを知りました。 何も長続きしたことのない私が一年も続けてこれたのは、素敵なふたりと読んで下さってる皆さんの優しい気配のおかけ…

背中

薄く伸ばした綿のような雲の隙間から 大きくて丸い月がやっと顔を出した。 見えた そう言っても、背後にいるJKは小さな唸り声のような音をたてるだけだった。 今夜は月が綺麗らしいよ お前がそう言ったからカーテンを開けたのに。 やっと出て来た もう一度言…

僕はNYで、とあるフォトグラファーのアシスタントをしている。 僕の父よりも歳上のボスは、かなりベテランのフォトグラファーだ。専門の学校を出たわけでもなく経験もゼロの僕が、なぜ採用されたのかは分からない。けれど、せっかくつかんだチャンスを無駄に…

料理

JKは鼻歌を歌いながら、早朝のキッチンに立っていた。 慣れた手つきで冷蔵庫から材料を取り出し、カッティングボードの側に並べていく。 『シャワーとかそんなのいいからそのまま来てよ』 昨晩は、出番が終わったタイミングを見計らってメッセージを入れてお…

仕返し

NYからそれほど離れていない割に湿度が低く空気が爽やかなこの土地を、JKは気に入っていた。 心地よい海風が、前にいるJMのシャツの裾をふわりと持ち上げる。 あらわになった腰の輪郭が背後の水平線と眩しく溶け合うのに目を細めながら、JKは自分の奥に愛情…