ほしばなし

JK & JMに触発されて書いた、短いお話

仕返し

NYからそれほど離れていない割に湿度が低く空気が爽やかなこの土地を、JKは気に入っていた。


心地よい海風が、前にいるJMのシャツの裾をふわりと持ち上げる。


あらわになった腰の輪郭が背後の水平線と眩しく溶け合うのに目を細めながら、JKは自分の奥に愛情と欲情が同時に湧き上がるのを感じた。


それに気づいたようなタイミングで振り向いたJMの表情は、この先に続くふたりの日々を保証するような、柔らかな暖かさに満ちていた。


その時、JMが口を開いて何か言ったが、風にさらわれてよく聞こえない。


なに?と足を踏み出したJKの耳に明るい声が届いた。

 


「おれたちさ」

 


また風が吹いて髪を揺らしたので、前髪に指を入れてから真っ直ぐ相手を見て、JKは残りの言葉を待った。

 


「こういうの、もうやめようか」

 


え?

という言葉は乾いた舌の上で留まったまま、ドッという鼓動の音が内耳に響いた。

 


「だってさ...」

 

JMは何か続きを話しているらしく、口はずっと動いているのだが、風のせいかJKの耳には全く入ってこない。


上ずった気持ちがただ、風に止まれ止まれと叫び続けている。

 


なんで? どうして? 理由は?

 

 

 

 

 


JKは頬を濡らす涙に気がついて、ベッドの上で目を覚ました。


ほんの数日前まで国の外を飛び回っていたせいか、一瞬自分がどこのベッドに居るのか判断がつかず、肌に触れる布の感触とその香りに意識を集中させた。

 

裸眼なのと気持ちが動転しているせいで、目の焦点がなかなか合わない。

 

ベッドサイドの窓にかかるカーテンを見てやっと自宅だと分かり、JKはため息をついた。

 

そうすると、また喉の奥から不安がせり上がって来て、NYのホテルの部屋で再会した時からの記憶を順に辿ったが、どこにも今見たような出来事は無かった。

 

全く。

 

JKは声を出して息を吐き、体にかかっている寝具を蹴り上げた。

 

腹が立つ。

 

そんな夢を見る自分にも、そんな夢を見させる相手にも。

 

シーツを締め上げるように抱き、どうしてやろうかとJKは考えた。

 

自分の心をその手に閉じ込めたままにしている相手はこの瞬間、側にもいない。

その事に対して罪の意識もないんだろう。全く呑気なものだった。

 

自分にこんな思いをさせてるんだから、たまには仕返ししてやらなきゃ。

 

JKはそんな考えに耽りながらしばらく宙を見ていたが、ベッドサイドのテーブルに置いてある携帯がふと目に入った。

 

今のままの自分を、世界中に見せたら。

 

それに気づいた時の相手の表情を想像して、JKはたまらない、というふうに笑った。

 

その頬にはもう、涙の跡も残っていない。