さっきからずっと部屋の中を行ったり来たりしている相手を見ながら、JKは小さくため息をついた。
自分に尋ねさえすれば日焼け止めも充電器もどこにあるかすぐ分かるのに、声を出すな動くなと言ってきかないので、大人しくソファーの上から見ているしかない。
確かに大舞台を前に体調が良くないのは不安だったが、長年の経験で峠は越えたような気がするし、何と言っても彼が来てくれるのだから気分が上がらないはずがなかった。
しかし、当のJMはイライラしながらまだ何かを探している。こんな状態で明後日の出発は大丈夫なのだろうか。
だからいつも、あった物はあった場所に戻すようにと言っているのに。
ピアスなども、外しては洗面台の上に置きっぱなしで、全部ペアで揃っているのかも怪しい。
まあ、そんな彼だから。
JKは、JMが掛けてくれたタオルケットを鼻まで上げて、自分の表情を隠した。
そんな彼だから、さっき自分がそこから指輪を拝借したことなど気が付きもしないだろう。
見るからに自分の指には小さいそのリングを、お守り代わりに先に連れて行く。
指にはめて空港へ行くと騒がれるかもしれないが、準備に忙しいJMの耳には届かないだろう。
床に並んで置いてある2つのスーツケースに目をやり、JKはもう一度タオルケットの下で頬を緩めた。