ほしばなし

JK & JMに触発されて書いた、短いお話

「愛してる」

 

 

どんな場面で言うのが好きかって?

 

それは

 

船の上で

夜空を見上げる瞳に

星がきらめくのを眺めながら

 

遊園地のアトラクションに乗って

その高さに少し強張った笑顔に向かって

 

当然、ベッドの上で

余裕をなくしてる相手の耳の付け根に

唇をあてるようにして

 

でも本当は

クルマの中で、が一番いい

 

後部座席のドアを閉めたら

小さい空間にふたりきり

 

目的地に着くまでの限られた時間で

心の底のほうにまだ残っている

衝動みたいなものをスプーンでかき出すように

 

互いの脚に触れたり

必要もないのに相手のシャツのボタンを

外してまた留めたり

そんなことをしてる時におもむろに

 

「愛してる」

 

って目を見て言う

 

そうするとさ

 

必ずチラッと運転席のほうを見るんだよ

仕切りがあって

向こうからは何も見えないっていうのに

 

雑な割に

神経質な子犬みたいに臆病なところがある

 

それなのに

好きでいてくれて、受け入れてくれて

 

ありがとう、って

嬉しくなるから

 

クルマの中で言うのが良い。

 

 

 

 

「愛してる」

 

いきなり目を見てそう言われたのは、車が空港の敷地内に入って、もう減速を始めた時だった。

 

心底驚いたようなJKの表情を見て、JMが、たまにはね、というように笑う。

車が完全に停止すると、JMは重ねていた手をそっと引き、外から見えないよう座席の奥の影のなかに体を移動させた。

コンコン、と外からウィンドウを叩く音がする。

 

「気をつけて」

 

顎で出るよう促しながら言うJMの言葉に、うん、と返事するつもりが全く違う言葉が口から出た。

 

「キスして」

 

軽く足を蹴られて、JKは笑いながらバッグを手にした。

名残惜しそうな親指の感触が、まだ手首のあたりに残っている。

 

マスクをつけた後、JKは自分で自分の顎を軽く掴んだ。

心配しなくても、マスクが弛んだ口元を隠してくれそうだった。

 

車のドアが開き、待ち構えていた人達が口々に自分の名前を呼ぶのが聞こえた。