いよいよふたりを送り出す時がやってきた。
下に降りてしまえば、もうここのことは忘れてしまう。
互いの手をしっかり握ったままのふたりを見て、天使達も切なくなってしまっている。
なんとかしてやりたいが、と皆がふたりを見つめるなか、神様が口を開いた。
ひとつだけ方法がある。
心臓をふたつに分けて、お前たちに片方ずつあげよう。
互いを憶えていなくても、心がひとつになりたくて引き寄せてくれる。
パッと輝いたふたつの笑顔が神様を見た。
その代わり。
神様は続けた。
半分しかない心のせいで、お前たちはずっと飢えることになる。
手に入れても手に入れても
まだ、まだ
もっと、もっと
そう思い続けることになる。
ここに戻ってくるまで、ずっと。
そのことが人生を難しくしてしまうかもしれない。
満たされないというのは、苦しいものだから。
ふたりは顔を見合わせて躊躇することなく言った。
構いません。
神様は優しく微笑んで両手を伸ばし、ふたりの右頬と左頬に手を添えて言った。
では、行っておいで。
JMは、通路で泣くJKを後ろから抱きしめて言った。
大丈夫だよ、うまくやった。
その背中は湿って暖かい。
しゃくりあげて跳ねる体を宥めるように、抱く腕に力を込めたその時、自分の鼓動が大きく響いた気がしてJMは驚いた。
ああ、そうか。
今、JKの心臓が自分のと重なってるんだ。
JMは、左の頬をJKの後頭部に寄せた。
その時、誰かに優しく触れられた記憶が頬をかすめたけれど、
何だったかな。
意識の斜め上あたりに、水中から見る水面のように何かがきらめいたが、今は腕のなかのJKに意識を集中させることにした。
JKはまだ泣いているが、震えはずいぶん小さくなってきたようでJMはホッとした。
不思議と自分たちふたりは、一緒に泣くことがない。
片方の涙を、必ず片方が拭うことになる。
まるでひとつの心をふたりで分け合っているようだった。
そう考えると、合わさった鼓動が不思議と歓喜の音に聞こえてきて、JMの心がふわりと浮き上がった。
大丈夫、もうすぐだ。
涙を拭いて空腹を訴えるJKの姿が、もうJMには見えている。