必要なものがすべて入っていることを確認して、JKはスーツケースの蓋を閉めた。
肝心の相手からは、電話はおろかメッセージもなし。
前からの約束とやらを優先させた上、全然帰ってなかったくせに「たまには家に帰らないと」ってなんだ。
これ見よがしにグループチャットで誘いをかけてみたものの、明日出発だろw のコメントで終わり。
部屋にいない誰かに向かってJKは盛大にため息をついて、ソファーから立ち上がった。
洗濯は終えた、ゴミは捨てた、電気は消した。
長く家を空ける時のチェックリストに、頭のなかで印をつけながらエレベーターに乗り込む。
地下の駐車場に出て、ピックアップエリアに向かう間、何かがチリッと心を掠った。
忘れ物かと思ったが、すべて確認済みのはずだった。
その時ポケットの中で携帯が震えたので慌てて取り出して表示された名前を見ると、ぐっと心臓の下あたりが痛んだ。
無視してやろうかと思ったけれど、そんなことは不可能だった。
出来るだけぶっきらぼうな言い方で応答すると、その服似合ってるな、ときた。
あわてて周りを見回して、駐車場の端のスペースに見たことのある車が停まっているのを見つけた。
運転席に人影が見えた気がして近寄ろうとした途端、それこそ見慣れた迎えの黒いバンが視界を遮って、こちらに向かって来た。
目の前にバンが停まり、スタッフが降りてくる。携帯から笑い声が聞こえてきた。
会うと離れられなくなるだろ
寂しがりやだから
それは自分のことを言ってるのか、相手のことを言ってるのか分からなかったが、確かめるまもなく、電話するよと言って通話は切れた。
初めて好きだと言った夜がある。
初めて好きだよと言われた朝がある。
その後に離れるのはとても寂しかった。
自分はそこからずっと進めずにいる。
相手はどうだろう。
それでも、JKはさっきまでよりはずっと幸せで、軽い足取りで車に乗り込んだ。