いつの間にか、部屋で流れていた音楽が止んでいる。
そのことに気がついてJMは携帯から顔を上げた。
少しだけ開けた窓から、ずっと降り続いている雨の匂いが入り込んでくる。
雨足は結構強いようだが、高層階の部屋からはカーテンのように広がった雨音しか聴こえず、それはあまりにも薄くて、ただの空気音のようだった。
世界に膜を張るような、優しい湿度に肌をそばだてていると頭がぼんやりしてきて、ソファーの上で触れ合ってる互いの太腿の温かさだけが、現実の確かさになっていた。
高いところにいると
雨の音が聞こえないね
窓のほうを向いてJKがポツリと言った。
帰ってきたら
一軒家に住むのもいいな
JMはそう言う相手の横顔を黙って見た。
どこから帰ってきた時のことか言わない。
どこから帰ってきた時のことかと聞かない。
ずっと彼を守って来た雨音の記憶に耳を澄ませてみる。
雨が地面をたたく音や雨樋から落ちる雫の音が、自分たちの過去と未来を覆っていた。
自分の膝の上に手の甲が置かれたので、JMは自分の指をそっと相手の指に絡ませた。