ほしばなし

JK & JMに触発されて書いた、短いお話

仕返し

NYからそれほど離れていない割に湿度が低く空気が爽やかなこの土地を、JKは気に入っていた。 心地よい海風が、前にいるJMのシャツの裾をふわりと持ち上げる。 あらわになった腰の輪郭が背後の水平線と眩しく溶け合うのに目を細めながら、JKは自分の奥に愛情…

忙しいの? 何度かかかってきた電話にずっとテキストで返していたら、 そんなメッセージが来た。 単身外国を飛び回っているお前ほど忙しくないよ。 JMは心の中でそう返しながら、咳をした。 あんなに風邪を長引かせている人間の側に居たんだから当然だし、実…

指輪

さっきからずっと部屋の中を行ったり来たりしている相手を見ながら、JKは小さくため息をついた。 自分に尋ねさえすれば日焼け止めも充電器もどこにあるかすぐ分かるのに、声を出すな動くなと言ってきかないので、大人しくソファーの上から見ているしかない。…

落下

僕は乳白色の夢を見ている 眠りと覚醒の境界は曖昧で ただでさえ夜と朝がひっくり返りがちなのに 朝と夜が逆の世界にやってきたせいで 僕はどちらにもいない 目を閉じたほうが明るいとか言うと 人は疲れてるねとか言うんだろう まったく難しいことばかり言い…

煌めき

マニラを走るタクシーの中、その女性はある2人のことを考えていた。 働く三児の母として忙しい日々を送る彼女に、夫がホテルのレストランでのディナーをプレゼントしてくれたのだが、帰途に着く前にトイレに寄った彼女は、ホテルの廊下の隅で向き合って立っ…

雨音

いつの間にか、部屋で流れていた音楽が止んでいる。 そのことに気がついてJMは携帯から顔を上げた。 少しだけ開けた窓から、ずっと降り続いている雨の匂いが入り込んでくる。 雨足は結構強いようだが、高層階の部屋からはカーテンのように広がった雨音しか聴…

♫ ここ最近、JKはずっと同じ歌を歌っている。 今も、食べた後の皿をキッチンに運びながら、その外国語の歌を器用に歌っていた。 一度は習ったことのある言語で、「とっても」や「夜」という単語は自分にも拾えるが、全体像はよく分からない。 どういう歌詞?…

隠しごと

可愛いな、もう 細長く腫れた腕の傷が目に入るたび、口許が緩んでしまう。 人目につく場所になにも痕が残らないよう、こっちは普段から気をつけてるというのに。 久しぶりの再会に大興奮の黒い相棒に、そんな気遣いができるはずもなかった。 明日の出発に備…

髪の匂い

もうすぐ迎えが来るというのに、ギリギリまでベッドで過ごしていたせいで、シャワーを浴びる時間もなくなってしまった。 洗面台の前で慌てて手櫛で髪を整えているJMの後ろに立つと、髪からふわりとシーツの匂いがした。 髪、結んでいけば? 怪訝な顔で自分を…

パレット

タバコを吸う奴の気持ちが分からないって、前に言ってたし。 銃をバンバン撃ち合う映画より、ロマンチックな恋愛ものが好きだろ。 兄が派手に立ち回る姿に、キラキラと瞳を輝かせている彼を横目で見ながら、JKは心のなかで呟いていた。 カットごとにあがる歓…

笑み

彼の笑った顔が好きだ。 瞳のきらめきがまぶたに押されて 水面に反射する陽の光のように揺らめくから。 パッと明かりがついたような笑顔が見たくて しばらくの間、自分の気配を消してから名前を呼ぶ。 泣き出しそうな笑顔を見たくて 誕生日を祝いに海を越え…

天井

電話で他愛もない話をしている間に、1時間が過ぎた。 向こうは一日のスケジュールが始まる前、こちらはそろそろ日付が変わる頃で、JMはベッドの上であぐらをかいたまま強張った首をくるりと回した。 そのはずみで、今日初めて見た、あの扇情的な広告を思い出…

出発

必要なものがすべて入っていることを確認して、JKはスーツケースの蓋を閉めた。 肝心の相手からは、電話はおろかメッセージもなし。 前からの約束とやらを優先させた上、全然帰ってなかったくせに「たまには家に帰らないと」ってなんだ。 これ見よがしにグル…

1分

59、58、57... 胃を搾り上げられるような痛みを感じる。 JMは小さくうめいてベッドの上で寝返りを打った。 真っ暗だと目眩がするので、寝室のドアは開けておいてくれと頼んだ。 暗闇の中、四角く切り取られた空間から、リビングのソファーとそこに座るJKが見…

熱の痕

喉が渇いて目を覚ますと、横に寝ていたはずの彼の姿がなかった。 枕元の携帯に目をやると「ごめん、行かないといけなくなった」とメッセージが入っていた。 海外から帰ってきたばかりで、今日1日は休みになるはずだったのに。 JKはため息をついて、携帯を投…

リスト

喉が渇いて目を覚ますと、大きな体が自分の隣に横たわっていた。 口は少し開いたままだが、寝息はいつになくおとなしい。 ついにそんなところまで気遣えるようになったかと、JMは少し可笑しくなった。 美味しい肉を食べに行く。 前から気になっていた帽子を…

kiss.

話を聴こうと顔を近づけたはずみで という偶然を装った、初めての 互いの気持ちをちゃんと確認したくて 唇よりも相手の目をずっと見ていた、2回目の 幸せで 小刻みに震える自分を感じながらした、3回目の 突き上げてくる欲望の勢いそのままに 噛み付くよう…

Lock

着替えも済んで、あとは楕円形のバングルを着けるだけなのに、慣れない形のせいか上手く輪を閉じられない。 もたもたと左手で金属ををいじっていると、急に後ろから人の気配が覆い被さってきた。 両脇から長い腕が回され、大きな手が右手首を包んだかと思う…

引き潮

広い部屋を暗くして抱き合うのがいい。 凝縮された暗闇に包まれているような質感に安心できる。 暗いうえに裸眼で視界が狭く、自分の指先がせいぜい見える程度だから、親指で探るように相手の唇に触れた。 少しカサついた表面を擦ってそのまま奥の濡れた場所…

瞳の奥

明かりを落とした部屋で 唯一ついてるテレビの光が 肌の上でチラチラ瞬いている。 横顔をさり気なく覗いてみたが 映画を観ていないのは明らかだ。 眼球が全く物語を追っていない。 瞬きさえ忘れたかのような瞳の 濡れた水面に虚しく 主人公達の闘いが映って…

迷子

ずっと走り続けているせいで、顔も指先も熱くなって膨張しているように感じる。 鼓動がバカだバカだバカだと変換されて耳の奥で鳴り続ける。 誰がバカだ?自分で相手だ。 なにが間違いかといえば、傷ついてると勘づいたのに甘えてそのまま全部言ってしまった…

点滅

目の奥で光がチカチカ点滅する。 フラッシュの明かりか 携帯の通知か。 眠い眠い。 頭上で飛び交う 全く理解できない会話も止んだ。 眠い眠い。 行儀の良い肌触りの服も脱いだ。 万年発情してるかのような 香水の匂いからも解放された。 眠い眠い。 こんなに…

冬の海

その色は、あの冬の海のようだった。 1月下旬、パリのファッション・ウィーク。とあるブランドのアンバサダーとして招待された彼の姿が、ネット上に溢れかえった。 緊張した頬と眼差しを動画越しに確認した後、 JKは彼の着ている服に目をやった。上着の色は…

オルフェウス

ステージのほうで自分達の名が呼ばれ、大きな歓声が上がった。 授賞のため一列になって出て行く兄達の傍に立ち、JKは列の後方に目をやった。 明るいステージに比べると裏の階段がやたら暗く、そこから上がってくるJMの白い顔だけがぼんやりと発光しているよ…

帰り道

仕事を終えてひとり、帰りの飛行機に乗り込んだ。 しばらく地上と連絡する手段は取り上げられるけれど、何かにつけて電話しては彼の声を聞きこうとする自分からも、これで解放されることになる。 機内で早速イヤホンをつけてブランケットにくるまると、心が…

the Dawn

若者の白い首筋に牙を立てると 青年に柔らかな眠りがやってきた 約束どおり 若者は青年の隣に体を横たえた 彼の首の傷口から流れ出た血液が 何か文字を描いているようにも見えたが それを読みとる間もなく 自分を見つめる若者の瞳に 吸い込まれるように 青年…

the Dusk

図らずも 吸血鬼にされてしまった青年が永遠の生という孤独に耐えかねて 長い長い旅に出た 昼間を避け 夜露をワインの代わりにし 梟に艶やかな歌声を聴かせ その強靭な脚で たくさんの川と山を越えて ある月の明るい夜 ヴァンパイア殺しが居るという古城に辿…

夜の色

目が覚めて携帯を見ると、もう午後になっていた。背中に意識を向けてみたが、そこに体温や息遣いを感じない。ドアの向こうからも物音がしないところをみると、JKはもう仕事に出たようだった。そこからたっぷり半時間ほど、寝そべった格好で携帯をチェックし…

雪の記憶

降り出した雨が、車の窓に引っ掻き傷のような痕を残し始めた。 今日は雨が降る日だったのか。 JKは、高速を走る車の後部座席から空を見上げた。 野外での仕事がない限り、家でその日の天気を気にしたりしない。外に出て初めて、暑さや寒さに気がつく始末だ。…