嘘だろ
携帯に届いた知らせ見て、JNは思わず声をあげた。
送信主の感情を読み解く余地もない程の短くて簡潔なメッセージに、JNは深く長いため息をついた。
最初は、幼い弟たちの恋愛ごっこだと思った。
キツい日々を乗り越えるための、いわば自衛策として、甘い遊びを始めたのだと思った。
ただでさえ自分には気を配らないといけないことが山ほどあるというのに、面倒ごとを増やしやがって、という気持ちもあった。
どうせパッと弾けた花火のようなものだろうという自分の考えが誤りだと気づいたのは、しばらく経ってからだった。
それはJNの予想よりずっと長く続き、そのまま変わることがなかった。
今日まで良いとされていたものが明日になるとそうでなくなる、そんな不確かで不安定な世界のなかで、ふたりはずっとそのままだった。
太陽が必ず東から昇るように、JKはどんな時もJMを見つめ続けたし、太陽が必ず西に沈むのと同じように、JMは変わらずJKを慈しみ続けた。
美しくも険しい岬に立つ灯台のように、どんな日もその姿は変わらない。変わるのは周りだけだ。
穏やかで天気の良い日には目立たないが、暗く荒れた夜に、その気高く暖かい光の存在感は一気に増す。
相手への視線をわざと自分が遮ったときの、いきなり夢から覚めたかのような、呆けたJKの顔。
周りを冷静によく見ていると思っていた自分自身に裏切られて、うろたえるJMの顔。
そんなふたりを見るのが、JNは嫌いではなかった。
そういう表情を見るにつけ、その関係がどこまでいってどう完結するのか見たいような、終わってはほしくないような、複雑な気持ちになっていった。
自分達は、手に入れたものを両手に握りしめて綱渡りを続けている。上手く渡っている間は拍手をもらえるが、落ちると命はない。
ふたりの関係は、命綱を互いの足首にくくりつけて、その一本の綱の上を渡り続けているようなものだった。しかも互いの目を見ながら。
いくら器用で体力のあるふたりでも、そんな複雑でアクロバティックなことを永遠に続けることはできるはずがない。
馬鹿だなと呆れはしたが、現実や幻滅に傷ついて終わってしまった時にかける言葉は用意していた。
けれど、結局ふたりは何ひとつ失わず何も損なうことなく、もうすぐ自分のもとに辿り着こうとしている。
JNは携帯を置いて、天井を見上げた。
ふたりが揃って自分の前に立ったその時には、盛大に笑いとばしてやる。
そう思っているのに、なぜか泣いてしまうような予感がした。
灯台の、あの真っ直ぐな明かりが眩しくて。