心臓が一生で収縮する回数は、哺乳類であればどの動物もだいたい同じ。
だから、体が小さく拍動のリズムが速い動物の寿命は短い。
友人宅でハムスターを手に乗せたときの、心臓が掌を打つその速度に驚いた話を家でしたら、兄がそう教えてくれた。
1人に一部屋ずつ割り当てられているホテルの一室、そのベッドの上に寝そべって、JKがそんな思い出話をしている。
ここは自分の部屋なんだけど、と思いながらJMは相槌を打った。
日付も変わりそうな頃にやってきたJKだが、もうかれこれ1時間ほど居座っている。
大仕事を終えた後だから、別に構わないと言えば構わないのだけれど、今日のスピーチの失態が思いのほかこたえているJMは、できればひとり静かに心の傷を癒したかった。
「だからさ」
そんな相手の気持ちを知ってか知らずか、JKは話を続ける。
緊張してるときは、おれを見てよ。
そう言いながらJKは、自分のそばで胡座を組んで座っているJMの太腿の上に、掌を上にして自分の手を置いた。
おれに向かって話してると思えば、少し気が楽になるでしょ。
JMは、そういうことかと相手を見た。
勝手にたくさんドキドキして、寿命が短くなったら困る。
半分本気のようなその言葉に応えるように、JMは自分の手をJKの手に重ねた。
いつだって見てるから。
ぽつりと言うJKの声が、ホテル独特の静かな空気に吸い込まれていく。
大きな掌がJMの手を包み、折りたたまれた長い指が優しく覆ってきた。
大きな歓声と自分の歌声が響くなか、JMはそのことを思い出していた。
歌っているあいだにJKの右腕が自分の肩を抱いてきて、そのまま体をホールドする。
その力の強さに何事かと顔を向けると、相手の瞳が思ったよりずっと近くにあった。
いつになく危ういその表情に咄嗟に目を逸らせたJMを追うようにして、JKは顔を近づけてくる。
頬に触れる相手の息の意図がわからず、JMは焦った。
今、もう一度顔をJKのほうに向けてしまったら唇が触れ合ってしまいそうな、それくらいの距離と勢いだった。
衣装の薄い生地の下にある自分の左胸が、JKの手の熱さを感じて脈打つ。
その高鳴りをマイクが増幅させて、世界中の人々に伝えてしまわないだろうか。
そんな心配に身を捩らせるJMに満足したように、JKは相手を解放した。
離れていく体温に、JMもやっと自分の息を解き放つことができた。
やっぱりお前はわかってない。
JMは相手から少し距離をおいたまま、動悸が落ち着くのを待った。
お前にいちばん使い込んでるんだよ。
JKを見つめはじめてから、自分は心臓に与えられた残りの数を、勢いよく減らし続けている。
けれど
そのぶん短くなったこの命が終わるときに
心臓の最後の一拍を、自分を見つめるJKの瞳に捧げることができたら。
JMは、ステージを照らすライトの眩しさに立ちくらみをおこしたかのように一瞬立ち止まり、それから顔をJKの方に向けた。
目が合った気がしたが、本当にそうかは分からない。