空っぽの状態より、家具があるほうが部屋は広く見える。
JKは夜空に向かってそびえ立つ摩天楼を眺めながら、誰かが前にそんなことを言っていたのを思い出していた。
トロフィーが身を寄せ合うように立っている高層ビルたちのせいで空はどこまでも高く、見上げていると重力に逆らって天空に吸い込まれそうになる。
そんな街で、JKは新しい年を迎えようとしていた。
テンションが徐々に上がっていく観客を楽しそうに見ているJMのことは、ちゃんと目の端で捉えている。
さっきからチラチラと視線は合うのだけれど、JMは毎回こちらの瞳を一瞬撫でていくだけだった。
今じゃないのは分かっているが、こんな夜には隣で体温を感じていたい。
0時になったらキスをするという習慣のせいで、間違ってJMに唇を寄せるバカはいないだろうかと考えたりもしたが、周りにいるのはほぼ兄達だけで、その心配はなさそうだった。
そろそろ近づいてきた新年の瞬間に、JKはまた空を見上げ、そこに銀色の宇宙船が浮かべた。
丸みを帯びてつるりとした表面に、輝く街並みや楽しそうな人々の顔を映しながら、その船は自分たちの前にスッと降り立つ。
機体の一部が音もなく開き、JKは手を伸ばしてすっかり冷え切ったJMの手を取って乗り込むと、驚いている相手を柔らかくて暖かい座席に座らせる。
特等席を用意したんだ。
JKがそう言うと、JMは一瞬目を丸くするが、すぐ柔らかい笑顔を見せる。
ふわりと浮かび上がる宇宙船のことは誰も見ていない。
もうすぐ来る瞬間に夢中になっていてこの宇宙船には気が付かない。
少ししてJKが外を確認すると、自分たちはもう一番高いビルの遥か上まで来ていた。
どこからかカウントダウンが聞こえてくる。
7, 6, 5...
窓の外を見て。
JKのその言葉に素直に従って、JMは窓を覗き込む。
その横顔は、JKが大好きな横顔だった。
3, 2,,1...
Happy New Year!
金色の紙吹雪が巻き上がって、窓の外を輝かせている。
JKは、そのきらめきを映したJMの頬にそっとキスをして
そして
目が覚めた。
薄く静かな闇のなか、意識の焦点をゆっくりあわせていくと、大勢の眠りの気配がして、今の自分の居場所を認識できた。
今年の終わりの夜。
ここには、きらめきながら舞い落ちる黄金色の紙吹雪も新しい年を迎える歓声もない。
望むべき平和な夜が、次の平和な夜に繋がるだけだ。
でも
どうだ?
JKは夢の中の自分に誇らしげに語りかけた。
おれはここまで来たよ。
少し体の向きを変えて、聞き慣れた寝息に耳を澄ませる。
一緒に、ここまで来たよ。
隣で眠るJMの手に触れたい衝動に駆られたが、今そんな無理をする必要もない。
実際はあの夜、新年を迎えたと同時に兄達と輪になって肩を組んだ。
JMが隣にいないことに少し気持ちを落としかけていたそのとき、誰かが自分の手に指を絡ませてきたのを感じた。
まさに真冬に出逢う静電気のように、その小さいが鋭い衝撃は指を伝わり、JKの心に突き刺さった。
その触れ慣れた指はとても雄弁で、寒空の下でJKの心の温度を一気に上昇させた。
誰にも見えない宇宙船に乗せて、君を連れていきたい。
その望みを、自分は叶えた。
JKは、今、自分の隣にある体温を心に抱きながら、静かに目を閉じた。