ほしばなし

JK & JMに触発されて書いた、短いお話

JKは、誰もいない部屋にひとりでいた。

そして、鏡に映った自分の姿を見てやるせない気持ちになってしまっていた。

 

小さくしぼんだ姿で目の前に立っている子供のような自分とは、とても目を合わせることができない。

 

唇を重ねたのは衝動が引き起こした行動ではあったけれど、同時に確認でもあった。

そして相手はちゃんと自分の目を見返してきた。

 

それなのにあの日以来、目を合わせるどころかふたりきりになるタイミングも巧妙に避けられ続けている。

 

最初は忙しいせいかと思ったが、その状態がもう1週間近く続いている。偶然とは思えなかった。

 

だとすると、自分の思い違いか相手の心変わりか、なにか失敗したのか。

どっちでもいい。ただ、答え合わせがしたい。

 

なのにその権利さえ与えられない状況に、気が変になってしまいそうだった。

 

 

「携帯あった?」

 

ずっと頭の中で、その声にいろんな台詞を言わせていたので、実際に耳から自分宛の声が聴こえてきたときも幻聴だと思ったほどだった。

 

「携帯見つかったの」

 

再度かけられた声が本物だとやっと気がついたものの、自分が求め続けていた相手がいきなり現れたことで慌ててしまい、JKは「まだ」と言う自分の声が無様に上擦るのがわかった。

 

JMはそんな相手をよそに、さっきまでJKが座っていたソファーに近づいて座面と背もたれの隙間にある携帯をあっさり見つけ、JKの手に押し込んだ。

 

JKはといえば、そのあいだも全く合わない視線に絶望的な気持ちになっていた。

JKの目の周りが熱ったようになり、視界がぼやける。

 

 

一体なにが間違っていたんだろう。

 


ほんの少し前までは、あの柔らかな眼差しで優しい声で、 自分を求めてくれていると思っていた。
でも、そうじゃなくなった。 それか、元々そんなことはなかった?


体内にある細い芯が剥き出しになって風にさらされているような、そんな心細さと情けなさでJKの心はいっぱいになった。

 


JKは、まだ自分の体のそばにある相手の体温が、 早くどこかへ行ってくれるよう願った。
そうすれば、涙が落ちるところを見られないで済む。

 


そのとき、自分の左右の腕に小さな圧力がかかったのを感じて、 JKは思わず顔を上げた。


その拍子に、飽和状態だった瞳の表面の涙がたまらずあふれて頬を伝い、 クリアになった視界に自分をまっすぐ正面から見ているJMの顔があった。


それは一瞬の出来事だったが、JKは近づいてくるその瞳がそっと閉じられていくのをしっかり見ていた。


唇は、涙よりずっと温かい。


そのことに初めてJKは気がついた。

 


顔が離れるとJMはもう一度JKを見て、一拍おいたあとに「 行こう」と言った。


その声は少し硬かったが、その意味を考える間もなく、 JMの視線がまた外れていくことにJKはあわてた。

 


待って

 


JKは、今度は自分からJMの両腕を掴んだ。
携帯が手から滑り落ち床を叩く音がしたが、 構ってる余裕はない。


もう一度確かめたい。
そうでないと、今度こそ自分はおかしくなってしまう。


JMはされるがまま、JKの真正面に立っている。


JKはさっきと同じように顔を近づけた。
相手に顔を逸す気配はない。


胃の下のほうからやってくる震えが、そのまま自分の唇を細かく揺らしているのがわかる。

 

 

 

合わせた唇をゆっくり離すと、JMの指が伸びてきて、強めにJKの頬を擦った。

 

 

いじめたと思われるだろ。

 

 

そう言ったあとにふと緩んだ相手の瞳を見て、JKは大きく弾んだ自分の鼓動の音を耳で聞いた。

 

「行こう」

 

JMは屈んで携帯を拾うと、そう言った。

 

 

 

行こう。

 

さっきまでの崖のふちに立っているような感覚が嘘のように、JKは目の前に道が開けていくのを感じた。

 

だがそれは、恋をしたばかりの若者がおかしやすい間違いだ。

これから先、幾度となくさっきまでと同じように不安にかられたり、悲しい気持ちになったりする。

けれど、同じように喜びの瞬間がたくさんあるのも確かだった。

 

 

JKは自分の手を引っ張る相手の掌の柔らかさを感じながら、今よりずっと高くなった位置からJMを見つめ、今よりずっと逞しくなった腕でJMを抱きしめる自分を想像した。

 

 

JMが好きだ。

 

彼のそばにいる自分の未来を描くほどに。

 

そして彼は、それを受け入れてくれている。

 

 

 

その事実に、JKはまた少し泣きそうになった。

 

けれど今度は、涙はJKの大きく黒い瞳を一瞬きらりと揺らしただけだった。