「はやく」
余裕をなくしたその声が、自分かJMかどちらのものかわからないくらい、肌も心も密着している。
相手の吐息が肩のあたりで砕けるのを感じながら、JKは思った。
はやく。
自分はどうしていつも急いでいるんだろう。
はやく、上手くなりたい
はやく、あんな自分になりたい
はやく、気持ちを知りたい
はやく、気持ちを知ってほしい
はやく、強くなりたい
はやく、未来を知りたい
はやく、泣かずにすむようになりたい
はやく、泣き止んでほしい
はやく、抱きたい
はやく、抱きしめてほしい
はやく、はやく...
JMは海を見るのが好きだ。
おおらかなうねりが大気を撫でているような。
夜明け前の繊細な色の空や、夕方の優しげな雲に、なにか素敵な物語を聞かせているような。
そんな海の姿を思いながら、JKは少し体の力を抜いた。
自分が急かしてしまった呼吸を宥めるように、JMの頭に頬を寄せる。
「ごめんね」
なんだかたまらなくなってそう囁くと、半拍もおかずに
うん
という声が返ってきた。
JKはふと、幼い頃に海に遊びに行ったとき、仰向けになって波に浮かんだことを思い出した。
そのとき、空が世界が、ずいぶんと穏やかに見えた。
波が自分の不器用な心を包んでくれている。
その優しい揺れの記憶をたどるように、JKは相手の胸の下あたりを指で優しく撫でて
それから、目を閉じた。